そういえば、あれなんだったんだろう?

ロックンロールな町でのできごとのあれこれです

一斗缶と七輪で暖を取る公設市場

家から徒歩30秒のところに、公設市場というのがあった。
八百屋や肉屋、魚屋、惣菜屋、たこ焼き屋、和菓子屋、パン屋、花屋、酒屋がはいっていた。
学校の下足場のような、昔の屋外プールの更衣室みたいなセメントで固めたねずみ色の床で、ベニアみたいなペラペラの壁で店舗間を仕切っていた。BGMは演歌の有線。
私は酒屋の娘と仲が良かったので、小学校低学年までは、彼女と絶交しないかぎりほぼその周辺で過ごしていた。
また、例の自称コーチが現れる公園は、公設市場の真裏。八百屋には駄菓子があるし、惣菜屋にはうずら玉子フライ30円が売ってるし、たこ焼き屋のお姉さんはいい人なので、一芸を見せたらたこやきを一個だけくれたりするし(決まった数で売ってたのに、端数を出させてしまい、いま思うと申し訳ない)、パン屋の工場にも入れてもらえるので、なかなかの良スポットだった。
冬はよく、八百屋で暖を取った。
一斗缶の中に、練炭だか豆炭だかをいれ、ガンガンに燃やしていた。
一升瓶を入れる木箱を立て置きにした椅子をそのまわりに並べ、八百屋のおばさんや客とみんなで囲むのだ。
するめを焼き出すと匂いでわかるので、たこ焼き屋のお姉ちゃんと楽しくじゃれあっていた我々もすぐ八百屋に急行したものだ。
パンチパーマがのびたみたいな、ジャラジャラ声のおばちゃんは、タバコを吸っていた。
パーマを当てた茶髪のおばちゃんは肌色の湿布を首の後ろに貼りまくっていた。今思えば、現在の武田鉄矢に顔が似ていた。
おばちゃんたちはたいていがま口をもっていて、近くにある観光名所的なお寺で買ってきたひょうたんのキーホルダーをつけていた。
ひょうたんの口に目を当てると、中に観音様の絵が浮き上がる、よくあるやつだった。
するめが焼けるのを待つ間、よく観音様をみて暇を潰していた。
床に向ければ、暗がりの中に浮かぶ、あやしい観音様。
出口に向ければ冬曇りの凛とした明るさをしょった観音様。
一斗缶の中を見れば、ゆらゆら動く赤い煉獄の、ドラマチック観音様だ。

おばちゃんたちは、夫や嫁姑の悪口をしていた。
するめはだいたいかたくておいしくなかった。